大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山地方裁判所 昭和25年(行)30号 判決

原告 吉田亮太郎

被告 宇和島市長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十四年六月二十日附でなした、従前の宅地宇和島市湊町二番地の九、横新町二十八番地の三合計三十八坪三合一勺の換地予定地として、同市湊町一番地の一(仮地番)宅地三十一坪四合二勺を指定する旨の処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求めその請求原因として原告は昭和二十一年十一月家屋建築の目的で前掲従前の宅地を訴外和泉幸信から買受けたが、建築を急ぐため、地上権者として届出をなし、同年十一月十二日建築面積十二坪の建築許可申請書を提出し、同年十二月二十三日付で許可になり、直ちに建築したところ、昭和二十四年六月二十日附で原告は被告から地上権者として前掲内容の換地予定地指定の通知をうけた。然しながら右指定処分は左の理由によつて違法である。即ち、(一)本件指定処分をなすに際しては、被告は従前の土地の地上権者として最も利害関係のある原告に対して一回の交渉すらしなかつた。(二)従前の土地にある原告の建物を本件換地予定地に移転するとせば、数万円の費用を要するにも拘らずその補償金額としては金四千二百八十四円を交付されるにすぎない。(三)原告は和船の櫓の製造販売を業とする者であるから営業上家屋の位置は海岸線の沖に近い程便益があるに拘らず右指定処分によると換地は従前の土地より約三十米海岸線の沖に遠くなり、それだけ営業上不利益を蒙る。(四)本件換地予定地及び従前の土地のある六十二ブロツクの整理区域内の訴外土井晃、同古島長六は、当該土地に生活の本拠を有するものでなく、他地区に拡大な土地を有しているのであるから、同訴外人等を現地に換地する必要はないのに拘らず、現地換地をなし、従前の土地で生業を営む原告を飛換地した。(五)右ブロツク内の区劃整理については、該区域内における各所有者の従前の土地の配列順に従い、南方道路から順次北に繰下げて各換地予定地を指定するなら公平であるのに、原告の借地のみを飛換地して原告以外の者に対してはすべて現地に換地した。(六)宇和島市の区劃整理については、一律に従前の土地の地積から一割六分減歩したものを権利地区として与えられることになり、原告の本件借地も減歩せられたのに六十二ブロツク区域内で、訴外山下幸三は約三坪、同中山照一は約十六坪、同山下良雄は約二坪それぞれ従前の地積に比し換地地積が増加し、訴外松崎計恵は増減がない。(七)六十二ブロツク区域に関係のない訴外今岡八千代に対し、該区域内に換地を指定しているが右換地部分を訴外土井晃に換地指定すれば、原告を飛換地せず現地に換地できた筈である。如上の各事実から本件換地予定地指定処分は原告一人を犠牲にした甚だ不公平な処置であつて違法な処分といわなければならない。仍つてその取消を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の答弁に対し、原告は十二坪の家屋を建築したのち、仕事場として六坪程の建増をした事実はあるが、被告主張のような悪質な違反建築ではない。六十二ブロツク内の多数の者は原告のみの移転するような本件指定処分に対しては反対していた。当時既存家屋は、原告方とその隣接の訴外寺田静男方家屋のみであつたと陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告請求原因事実のうち、被告が昭和二十四年六月二十日付で原告主張のような換地予定地指定の通知を原告に対してなしたこと、原告がその主張の日時その主張の土地を訴外和泉幸信から借地した形式で、地上権者として届出をなし、該地上に建坪十二坪の家屋建築のため許可申請をなし、その主張の日時許可されたこと、本件換地予定地指定に伴う原告建物の移転について補償金四千二百八十四円を交付することになつていること、は認めるが、本件指定処分は違法ではない。即ち(一)被告は土地区劃整理委員に諮問し、地元土地所有者の意見を勘案のうえ、本件指定処分をなしたものであり、(二)補償金額を不服とする理由がなく、(三)本件換地予定地は従前の土地に比し、漁帆船の収容量、繋留等の点から見て櫓の製造販売を業とする原告の営業上の利用価値に差異はないのみならず、従前の土地は普通地であつたが換地予定地は角地に位するから宅地としての利用価値の点では、従前に比し絶大な利益を受けており、(四)換地設計方法として原告主張のように順次繰下る方法は理想的ではあるが、該方法を採用すれば、訴外古島長六の家屋は堅固であるためその移転に多大の費用を要しその他既存の建物、工作物の移転も必要になるから、当時の資材物資の困窮その他社会経済状況を考慮し、公益的見地から、既存建物の移転を少くするため、且、原告の建物家屋はその許可申請による建築面積十二坪を十坪二合五勺も超過している違反建築であるうえ、その資材も悪質だから、結局上級行政庁に上申して違反建築としての処分をうくべきものであるから、これらの点をも勘案して、原告のみを移転し飛換地したものであつて、宇和島市全地域に亘り区劃整理を実施している現況においては、原告主張の如き方法を採用することは不可能である。(五)なお、六十二ブロツク区域内に、訴外今岡八千代に対し換地を指定したが、これは同ブロツクの内の訴外土居晃に対し指定すべきものを右両名が連署のうえ、交換方陳情したので、交換のうえ指定したものであり、右換地を訴外土井晃に指定したとしても、原告の本件換地予定地には影響はないと述べた。(立証省略)

三、理  由

被告が昭和二十四年六月二十日付で原告に対し、宇和島市湊町二番地の九、横新町二十八番地の三の各宅地合計三十八坪三合一勺の宅地につき地上権者としての換地予定地として、同市湊町一番地の一(仮地番)宅地三十一坪四合二勺を指定する旨の通知をなしたことは当事者間に争ない。

先づ原告の従前の土地と換地予定地の等位を比較するのに、検証の結果によれば、いずれもその前面は道路を距てて南北に通じる帯状の宇和島市内港に接し、右内港には、此れと対岸丸の内及び沿岸町村との間を連絡する渡船或は漁船、機帆船の航行頻繁にして、右内港に沿つて、本件従前の土地から南方約一町の地点の内港突端には、小型機船の発着する内港棧橋があり、且、従前の土地の南隣地は南北に通ずる道路に接し、該道路は西に伸びて内港背面の漁船機帆船繋留場を経て臨港道路に接続し、如上道路の一端は波止場樺崎に他の一端は国鉄宇和島駅に達していること、これに比し換地予定地は従前の土地の北方約三十米の地点に位しており、それだけ海岸線の沖に遠く且臨港道路に接続する前記道路に遠いことが認められるから、宇和島市の波止場と国鉄宇和島駅えの陸上交通の点において若干遜色があると考えられるけれども、従前の土地との距離は僅々三十米であるにすぎないうえ、従前の土地は角地でないのに反し、換地予定地は東南二面は道路に接し南側道路は狭く、幹線道路に接続していないとはいえ、ともかく角地に位し、附近は商家櫛比していること、更に前方内港の漁帆船繋留区域における漁船の繋留乃至収容量についても両地について大差なく相近似していることもまた検証の結果明らかなところであるから、如上事実を綜合すれば、両地の等位は略同等のものと推断できるのであつて、或いは換地予定地が従前の土地に比し約三十米沖に遠いため和船の櫓の製造販売を業とする原告としては、その営業上の価値において差等があるとしても極めて些少の差異にすぎないというべきであるから、これは換地予定地についての準拠と解せられる耕地整理法第三十条を適用するについて許容された被告の裁量権行使の範囲をこえる程度のものということはできない。

次に本件の区劃整理において六十二ブロツク区域内では、原告のみが飛換地を指定せられ、原告以外の者は殆んど現地に換地せられたことは当事者間において争いのないところであるが、原告主張のように同一ブロツク内の訴外土井晃、古島長六は大地主で、その土地で生業を営む者でないとしても、かかる事情は必ずしも換地予定地の指定に際して考慮せられるべき必須条件でないのみならず、右訴外人等の従前の土地は、いずれも角地に位していたことは検証の結果明らかであるから、両訴外人等を飛換地せず、現地に残したことは条理を逸脱した処置とはいえず、また原告主張の如く右ブロツク区域内に該区域外の訴外今岡八千代の換地指定したことは当事者間に争いないところであるが、仮りに右換地を訴外土井晃に指定したとしても、右ブロツク区域内に同訴外人は東南及南西の両角地を含んで本ブロツクの最南端部分に百九十六坪二合五勺の宅地を有していたこと、同ブロツクでは、道路拡張のため、従前の土地から一割六分減歩して権利地積を与える方針をとつたことは証人加納綱雄の証言によつて認められるから、同訴外人の宅地地積は一割六分減歩しても権利地積は約百六十四坪となり、六十二ブロツクにおいて土井に指定した換地は約九十坪であることは右証人の証言により明らかであるからこれに右訴外今岡八千代に指定した換地三十坪二合五勺(如上地積は成立に争のない甲第四号証によつて認めうる)を加へても、権利地積には足りないのであり、且検証の結果によれば原告従前の土地は本件ブロツク中東側にありて右土井の土地の北隣に位していたものであるから訴外土井晃の換地に指定せられた原告従前の土地(これは検証の結果明らかである)を同訴外人の換地から取除くことは如上関係人の従前の土地の位置地積等の点から見ても原告において当然に主張しうべきことでないのみならず、前掲認定の如く同訴外人の土地は従前角地に位していたから、同訴外人を検証の結果により区劃整理後角地となることがうかがわれる原告従前の土地を含む地域に換地したとしても条理に反する処置とはいえない。而して

前掲認定の如く、原告従前の土地と換地予定地との等位がほぼ同等であり極く些少の差等あるとしても、被告の裁量権の範囲をこえていない以上、如上の二点に関する原告の主張は本件換地指定処分を攻撃するに充分な手段たりえないことは勿論である。更に換地交付に際し原告主張のように順次繰下げて換地を交付することは耕地整理法第三十条の規定の趣旨に最も忠実な指定方法であるとしても証人加納綱雄同古島長六の各証言を綜合すると、本件換地予定地指定当時第六十二ブロツク中原告の外訴外寺田、松崎、富永、山下、中山、広瀬等七、八名の宅地に家屋があり、順次繰下げると多大の移転費用を要するものであることがみとめられるところ、一方原告の建築家屋は許可面積は十二坪であつてそれ以上の部分については、無許可の建築であることは当事者間に争ないところであつて、その資材が良質でなく恒久性に乏しいことも検証の結果うかがはれるところであるから、原告家屋の移転は比較的容易であることが推断されるから右の如き事情と、原告の換地予定地が従前の土地に比し、略同等の等位に指定せられたことを彼此考え合せると、原告だけを飛換地したことも耕地整理法第三十条を適用するについて許容された被告の裁量権の範囲内の処置ということができる。

なお、原告主張のように六十二ブロツク中区劃整理の結果、従前の土地に比し、換地地積が増加し一部過分の利益をうけたものがあるとしても一方原告において特段の利益をうけなかつただけのことで原告においても同様過分の利益をうくべきことを主張しうる権利を有するわけのものでなく、又換地指定処分をなすに際し、従前の土地の地上権者その他利害関係人に対しその意見を徴し、或ひは交渉することは法の要求しないところであるからこれを欠いでも違法でないことは言うを俟たないところであり、原告主張の、補償金が特別都市計画法第十五条第三項の補償金であることはその主張自体から推断されるところ該補償金額に対する不服は同法第二十五条により別に出訴の途が開かれているのであるから、これをもつて換地予定地指定処分に対する違法事由となすことはできないと解すべく、従つてこれらの点に関する原告の各主張はそれ自体理由がないというべきである。

従つて結局本件換地予定地指定処分は適法とみとめるの外はないから、その取消を求める原告の請求は理由なく、棄却をまぬがれない。仍つて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、九十五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 伊東甲子一 橘盛行 荻田健治郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!